通夜

04 05, 2010
4月4日、日曜日。 夜・未明。
私の身内が交通事故で亡くなった。

彼とは仕事を一緒にした時、ちょっとした行き違いで疎遠となり、長い間会うこともなく、
そのまま、今日まで経過してしまった。
それが非常に心残りだ。今、部屋の中で一人でいると・・・・・彼の満面の笑顔が思い浮かぶ。

会って、話をして、昔のことなど笑い飛ばせる日がいつかは来るんじゃないかと思ってた。
でもそれは実現しなかった。
残念でならない。

今から、背の高い、そしてハンサムな彼について思い出しながら、私にとっての彼の存在を、
少々つづってみようかと思う。彼のメモリー。彼の表情が輝いてたころ・・・・。
今夜、通夜が行われたのだが、私はどうしてもはずせない仕事があり、欠席した。

今夜は酒を飲み、「中華あんかけ炒麺」 を食べつつ、私の部屋で、私独りの彼の通夜だ。
彼の思い出と、アルコールと、フォルクスワーゲンと、TIサーキットと・・・・

私なりの彼への追悼の時間・・・・・・

鶴山小学校
                県北 T 市  鶴山小学校の桜


『彼』と最初に会ったのは、もう20年ほど前、
私が東京の不動産会社に勤めていて、帰省していたときだった。

随分と背が高くて、モテそうなルックス。
でも彼は、私と喋るときえらく緊張してるみたいだった。(ドギマギしている彼の顔を今でも憶えている)

そして次はめでたい席。
私と、私の妹と、彼と、彼の妹と4人で、サザンオールスターズの 「いとしのエリー」 を歌ったな。

彼が名古屋に越して、その頃私が住んでいた横浜のたまプラザまで、ユーノス・ロードスターに乗って
来た事があった。ディズニーランドに行く、とか言ってさ。
彼は東名横浜ICで降りて、246がめちゃくちゃ混んでいて、約束の時刻を大幅に過ぎて、
たまプラザの僕のマンションにたどり着いた。しゅういち君と同居してたマンションだ。
ファミレスで談笑して、その日のうちに予約してある浦安のホテルに行くことになって、
私は、愛車アウディ100CDで、彼を先導することにした。

東名から、首都高3号線。環状線に入りしばらく走行。
「えーーーっと浦安は・・・」と思った瞬間。千葉方面への分岐!!!!
私は迷わず3車線分くらいの、【大車線変更】 を行った。
バックミラーに映る彼のユーノス・ロードスターは、一瞬とまどったかに見えたが、
見事に後続のクルマをいなしつつ 【大車線変更】 を行い、私にピッタリと付いて来た。
『運転うまいな~~~』 私が彼の運転技術に感心した最初の瞬間だ。

しかし、、、、ものすごい車線変更がいけなかったのか、彼は翌日、ディズニーランドで具合を悪くして、
浦安の病院に入院した。見舞いに行ったなーー。
すごく狭い病室に彼が申し訳なさそうに横たわっていた。
仕事に多忙な私に変わって、しゅういち君がユーノス・ロードスターを駆って、私の妹を名古屋まで輸送してくれた。
妹、後日曰く、、、「しゅうちゃんが、横浜ベイブリッジ通ってくれた。奇麗だった」



私はやがて、東京で恋に破れ、傷心のまま故郷に帰ってきた。
学習塾の講師のかたわら、家庭教師を複数こなし、、そうだな、月45万ほど稼いでいた。

彼も私と似ているのか、一つの仕事があまり長く続かない性分のようで、
「転職しました」 「また変わりました」 って職を転々としていたと思う。
一時は、公務員試験受けます、とか言って問題集を持ってきたこともあった。



彼はクルマが好きだった。心底クルマってものを愛し、いつもピカピカに磨き奇麗に乗っていた。

   ユーノス・ロードスター、BMW320i、ゴルフGTI、メルセデス380SLC・・・・


そんな彼と、1997年、F1鈴鹿グランプリを見に行く計画を建てた。
当時は皇帝シューマッハの絶頂期。
フェラーリのチームメイト、エディー・アーバインと黄金期を築いていたころだ。

ギターをやってた テル と、小学校からの旧友 トクアン と、彼と、私と4人で鈴鹿に行くことにした。
テルとトクアンは土曜日の予選から現地に行き、彼と私は日曜の本戦から現地で合流することにした。
当時の彼のセカンドカー・・・ホンダ・ステップ・ワゴンで、土曜の夜も遅い時間、岡山を出発した。

鈴鹿までの道のりの間、彼は彼の夢について語った。
キッチンを売る楽しさ。キッチリ施工できた時の喜び。ついでに付属品を売りつけて儲ける方法。
まあでも、2人とも初めて見るF1のため興奮気味で、ちょっと異次元だったな、あの時は。

鈴鹿でテルとトクアンと合流。
夜遅いのに、鈴鹿サーキット近辺にあるF1のグッズのSHOPに行ったなぁ・・・。
テルのRAV4とステップ・ワゴンに別れて、クルマの中で一夜を過ごした。
こういう具合にクルマの中で男同士で寝るのもいいね、たまには・・・。

鶴山小学校の桜

夜が明けて、SUZUKA決勝当日。
当日の席の位置でサーキット側の係員と揉めた末、テルのおかげで我々はホームストレートの
特等席で観戦する事ができた。すべてはテルのおかげた。
トクアンは得意のカメラで、F1の様々な Scene を撮影していた。

我々4人は、F1マシンの轟音・爆音を前に、興奮はピークに達し、鳥肌が立っていた。
レースは非常にエキサイティングだった。
フェラーリ・シューマッハのチームメイト、エディ・アーバインが、ファーストコーナー先の、
折れ曲がった部分で、シューマッハとチャンピオン争いをしているジャック・ビルヌーブをパス!!!!
これぞ、、、これぞ仕事人、ベスト・セカンドドライバー、アーバインの仕事っぷりだった。

結局、我々の応援していたシューマッハが優勝!
白熱した、そして陰謀うずまく鈴鹿のレースに満足した我々は、グッズを売っているショップへ。
『彼』は、、フェラーリ50周年の大きな旗を購入した。なんだか目立つ旗だったな。
そして、レースクィーンというか、キャンペーンギャルというか、そういう女の子と一緒に写真を・・・。

帰り道、鈴鹿から滋賀の国道1号線に向かう道が大渋滞。
ステップワゴンに乗った私と彼。
RAV4に乗ったテルとトクアン。
どちらがより良い裏道で早く抜けるかの競い合いになった。
両方のクルマに、当時としては最新のナビが付いているんだが、結局我々のステップワゴンが、
ちょっとの差でRAV4をかわし、先頭に立った。

三重県から滋賀県へ。そして京都府。
大阪に入ってテルが 「夕食は、わしの考えてるとこがある」 と自慢げに立ち寄った、当時
できたての 『ガスト』。
しかしガストのメニューは我々の空腹を満たすには、極めて貧弱だった。
どうせなら、焼肉食い放題とか、餃子の王将とか、・・・そんなとこの方が良かったのに。

トクアンが高槻の高台に寄る、とか言って、2台のクルマは高槻市の山の手へ。
まあ、4人とも初めてのF1に興奮して、岡山まで本当に幸せな気持ちでドライブできた。
私の家についてから、『彼』は明日の仕事道具をステップワゴンに詰め込み、午前1時ごろ、
笑顔で自宅に帰っていった。あああ、すごいタフだな。
好きなことだったら、いくらでも体力でるもんだな・・・男って、、と思った。



フォルクスワーゲン・ジェッタ

『彼』は次にレースに夢中になりはじめた。
中古のVWジェッタを買い、改造。
TIサーキット、山口のMINEサーキット・・・・・・私はカメラを持って彼に付き添った。

そうだな・・・・・、彼のゴルフ・カップでの戦績はというと、
お世辞にも速いとは言えなかった。そして、特別遅いと言うわけでもなかった。

真っ黒のジェッタに、タイヤメーカーや各種チューン・メーカーのステッカーを貼りまくり、
レース用のタイヤを履いて、彼はサーキットを疾走した。
いやあ、、、あの頃の彼は本当に幸せそうだったな。
クルマに乗って、好きなフォルクスワーゲンに乗って、大好きな競争ができるという事に、
大いに満足していたようだった。

西宮のパーツショップに、彼と2人で出かけた帰り道。
私がゴルフを運転して2号線を岡山へと向かった。
明石で本場の「たまご焼き」を食べた。
そして岡山までの暗い2号線での帰り道、彼はさまざまな自分の過去を喋った。

「あんなこと、こんなこと、あったよね、
  うれしかったこと、おもしろかったこと、
    いつになっても、忘れない」

そして彼は自分の会社を有限から株式に格上げし、高級キッチンの販売・施工を始める。
我が旧友、リュウさんも 『彼』 のショールームを訪ねて何度か話をしたようだ。
営業について・・・・・とかね。



私は、いつか、彼とあの世で会うだろう。  きっと。  それは確実だ。

そしてその時は、『BMWがどうか』 とか 『レクサスがどうの』 とか 『あの女かわいい』とか、
昔、無邪気に話してたような話をしたい。互いに笑いながら。



君の一生は、強烈にエキサイティングだったし、
インパクト、とは君のためにある言葉かも知れない。

背の高い君。
運転が上手い君。
そして何より子供のことが大好きだった君。

いつかまた会いましょう、また、どこかで。




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